ワインを科学する vol.2 『酒石酸』

こんにちは、TAOスタッフ井上です。

風邪をひいてしまいました。めっちゃ流行っているみたいですね。皆さまもどうぞお気をつけください。

そんな中井上は薬を飲んでも一向に良くならないので、今日からお酒で治していきます…

 

はい。

今回もワインを科学していきます。連載vol.2。どうぞお楽しみください。

 

 

ワインを飲んで、酸っぱく感じたことはあるだろうか?

酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、酢酸、酪酸、乳酸、コハク酸……

ワインには実に多くの種類の酸が含まれているが、今回は最も重要な酸、「酒石酸」にフォーカスする。

自然の作り出す物質としての酸が、時に人間さえも操った過去がある。酸と人間の、複雑なストーリーに迫る……

 

1922年(大正11年)「赤玉ポートワイン」ポスター(発売元:現サントリー)

平成29年1月を終えた今日、このポスターを生で見たことがあるという人間はもう数少ないかもしれない。これは、「日本人の味覚に合った葡萄酒をつくる」べく、初めて日本で開発された『赤玉ポートワイン』のポスターであり、まさに“時代の変化”が詰まった重要な一枚である。米1升が10銭する中で、赤玉ポートワインはその4倍に相当する40銭という高級品だったが、積極的なパブリシティにより販売に成功した。このポスターは日本で初めてヌード写真を用いたことで知られており、いかに奇抜斬新なものだったかが伺える。その様子は2014年朝ドラ『マッサン』でも取り上げられ、好評を博した。現在でもこのワインは「赤玉スイートワイン」と名を改め、多くの日本人に愛されている。

このポスターが発売されて間もなく、日本は太平洋戦争へと大きく舵を向けていく。多くの酒類が、「ぜいたく品」だといって挙って規制されていく中、ワインは特別扱いを受け、逆にその製造が加速されていた。『マッサン』のワンシーンにて、当時の日本海軍からワインを納めろという命令を受けた場面を覚えておいでだろうか? 実はワインは、当時軍事目的でその生産量が3倍になっていたのだが、その秘密は、今回のテーマ『酒石酸』にあった。

 

酒石酸 化学式

冒頭にも書いた通り、ワインの酸味は様々な物質によって作られているのだが、完熟ぶどうの有機酸のうち1/2~2/3が酒 石酸であるため、ワインの酸味はほぼ酒石酸によるものである。酒石酸は、ワインの化学的安定性や色に大きく関わり、また最終的な味にも影響を与えるため、最も重要な酸であると言われる。葡萄の開花期、花に多くの酒石酸が蓄積し、その後、若い果実に移行する。果実が熟す過程において酒石酸はリンゴ酸と異なり、呼吸等で代謝されず、そのため比較的保存される。葡萄中の酒石酸の半分以上は、遊離酸ではなくほとんどがカリウム酸塩として存在するため、酒石酸としてそれを取り出すことは不可能である。

発酵を行う過程で、酒石酸は発酵かすやパルプ屑、沈殿したタンニンや色素に結合し、結晶となって析出する。残りの約半分がワインに溶けているらしい。ワイン中の酒石酸を結晶化させて沈殿させ、それを取り出したのち、瓶詰めしたのが古くから伝わるワインの製法である。

 

ワインに沈殿した滓にも、貯蔵していた酒ダルの周壁にもこびりついた酒石酸は本来は搾りかすと同等のゴミであったが、戦時中はこれにソーダ化合物を加え、ロッシェル塩と呼ばれる少し大きな白い結晶にされていた。ロッシェル塩は、音波をすばやく捉える特性があり、音波を電気信号に変える工程に向いていた。少し前の時代だとイヤホンにも使われていたそうだ。戦時中では、ドイツがいち早くこれを採用して音波防御レーダーを開発、艦船に装備して、潜水艦や魚雷に対処する兵器とし、効果を発揮していた。ミッドウェー海戦敗戦後、日本海軍はこのドイツの技術を取り入れ、日本全国のワイン業者に酒石酸、ロッシェル塩の製造をさせた。当時、葡萄はまさに、兵器と化していたのである。

 

実は、ブドウ属にはかなりの濃度で含まれるこの有機物、他の植物にはほとんど含まれていない。そのため、酒石酸がとれるワインの価値は高く、贅沢現金の戦時中にも関わらず高級品ワインの製造が日本で発展するというなんとも奇妙な結果につながったというわけだ。

 

現在、山梨県が世界的にも認められるワインの産地になっているが、その起源は、兵器としての葡萄、この『酒石酸』にあった。

 

 

TAO STAFF

井上聡太

 

 

追記

酒石酸、これもAmazonで購入できます。

酒石酸の酸味はクエン酸などよりも強く、ちょっと酸っぱく高級なポン酢なども作れたりするそうです。

んー、買わへんかな?笑

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