「黒い紙よ」
「白に黒のコントラストの食べ物って、見たことあるかい」
「手で食べた。箸やフォークは使わないんだわ」
「ごらん、黒い紙は剥かないで食べたよ」
「あ、中から何かでてきた」
マサコの前に運ばれたおにぎりに、両隣のテーブルの客たちは自分たちの食事をそっちのけにして注目していた。
おにぎりが食べたくなる本・・・
『かもめ食堂』。
ヘルシンキの街角にある「かもめ食堂」。
日本人女性のサチエが店主をつとめるその食堂の看板メニューは、彼女が心をこめて握る“おにぎり”。
文中にはこんな会話が出てくる。
「私も自分で料理を作る暇がなくて、コンビニでおにぎりを買ってきたりもしたけど、あれはただおにぎり形になっているだけで、御飯や具の味だけで、根本的な味が何もないのね。
私が子供のときは、友達の家のおにぎりを食べさせてもらうと、その家の味がしたのよ。
同じ御飯と海苔だけでも、全然、違ってた。そして同じようなおにぎりでも、おいしいのとおいしくないのがあった。
ああいう人の手で直接握るものは、その人が出るのよね。
サチエさんのは、とってもおいしい」
確かに、おにぎりにはその人が出ている気がする。
「気持ちがない人がただにぎるのと、気持ちがある人が心をこめてにぎるのと、味が違うんです」
丁寧に握ったおにぎりには、やはり丁寧な味がする。
「おにぎりは人に作ってもらったものを食べるのがいちばんうまいんだ」
そして、自分が作ったおにぎりよりも人が作ったおにぎりははるかに美味しい。
「千尋の元気が出るようにまじないをかけて作ったんだ お食べ」
『ONE PIECE』にもあった、こんなシーン。
この「かもめ食堂」、映画にもなったのだが、この映画のフードスタイリスト・飯島奈美さん。
この方のおにぎりの破壊力がまた凄い。
温度や香りが伝わってきそうなこのおにぎりは写真や映像にも関わらず私の心と胃袋を鷲掴みにし、思わず手を伸ばしたくなる。
映画の「かもめ食堂」では、おにぎりに海苔を巻くときのパリッという音、鮭や生姜焼きを焼く音、トンカツに包丁を入れた時のサクッという衣の音・・・
視覚や聴覚といったごく一部の感覚からしか捉えられないはずなのに、味、食感、歯触、何より食べた時の幸福感が全身に伝わってくる。
飯島奈美さんのレシピ本、大好き。
オススメはコレ。
おにぎりの写真にこんなにも心を奪われるなんて・・・。笑
そして、中の具が見えないのがまたドキドキする。
「やっぱりおにぎりは、鮭、おかか、昆布、梅干しなんです。
日本にいても、どこにいても」
その通り。
ツナマヨなんて食べません、私。
ごめんなさい、中身がツナマヨだと露骨にガッカリします、私。笑
ツナマヨを食べるなら、鰹節に醤油とマヨネーズを混ぜた「おかかマヨ」をオススメします。
しかしながら、これだけ“おにぎり”について書いたけれど、きっとまだこの人の半分も「おにぎり」という言葉を使ってはいないんだろうな。笑
追伸、
撮影に使用したツナマヨおにぎりは、スタッフ宮川氏が美味しくいただきました。